「ゆめいろリーディングvol.2」が終演した。今回も脚本を担当してくれた保邑リュウジ氏は、上演された作品を見てどう感じたのだろうか。早速、話を聞いてみることにした。僕も彼も、酒は飲めない方だ。だから、いつもの如く、昼間の喫茶店での対話になった。

 

保邑「配信で見ました。今回の評判は、SNSを見る限りでは割とよかったみたいだけど、実際どうだったんですか?」

獅堂「そうですね、今はアンケート用紙が配布できないから、本当のところは分からないんですけど、悪い評価ではないと思います。現場にいて、客席を見ていたんですが、居眠りをしているお客様は、ほぼいらっしゃらなかったと思います。あと、1話目と2話目、2話目と3話目の間に換気タイムが5分ずつあるんです。『つまらない』と感じたお客様は、そこで退席されてもいいんだけど、そういう方もいらっしゃらなかったようです。例えば、第1話のヒロインを演じた相川なつさんのファンの方は、お目当てのなつさんがもう出てこないのだから、1話目で帰ってもいいんだけど、ちゃんと最後までご覧になっていました。それだけ、作品に力があったということだと思います。」

保邑「嬉しいですね。」

獅堂「僕も感じたことなんだけど、僕のお客様の中で、『これまでの作品とはテイストが違って面白かった』という方がいらっしゃったんです。どういうふうに着想したんですか?」

保邑「今回初めての試みとして、よこはまさちこさんの脚本『瘡蓋(ケロイド)』を、朗読用に改作するという作業をしましたよね。『瘡蓋(ケロイド)』は、主人公の婚約者が、主人公の親友の女性と関係を持ってしまい、その結果親友が妊娠してしまうという話でした。それで、閃いたんです。今回は、‘妊娠’をテーマにしよう、と。それまでにも、他の2作の大体の方向性は決めてたんですが、具体的な展開とかは思い付いていなくて、結構悩んでたんです。」

獅堂「じゃあ、よこはまさんの作品が、突破口になった、と。」

保邑「そう言ってもいいかも知れないですね。まあ、前々から女性の妊娠・出産は僕の作品には登場してましたし、個人的にも‘新しい命の誕生’には関心が高いんですよ。」

獅堂「全体的に、ゆめリー1の時に比べて、重みがあるというか、お客様の感想で『どれも地に足が着いた作品だった』というのがあったけど、僕も演出していてそんな感じがしました。重いけど、決して忌避感はないというか。」

保邑「そう受け取ってもらえてよかったです。ちょっと重すぎたかなという感じもあったけど、今回は、書き出すまでは時間がかかった割に、一気に書き終えました。勢いに任せた部分があったので、割と考えていることがあからさまに出た。その意味でも、これまでの自分の作品とは一線を画していると思う。」

獅堂「お客様には、『天使が涙を流す時』が割と人気があったみたいだけど、保邑さん的には、どれが気に入ってるとかありますか?」

保邑「そうですね、今回は3作で1セットって感じなので、どれとは言い難いけど…。自分的には『スワンソングをあなたと』が書けたことが大きかったと思います。これは、今までの保邑作品にはないテイストだったから。」

獅堂「中高年のお客様は、『スワンソング…』の雄三に共感できたという感想が複数あったりして、SF仕立てではあったけど、人間がしっかりと描かれていると思いました。」

保邑「今までの僕は、割と派手好きなところがあって、歌があったりダンスがあったり殺陣をやったりと、エンタメ要素を塗さないと自分もお客様も満足しないってところでやってたんですよ。でも、朗読は、歌は入れられるけど、派手なエンタメ要素は入らない。そこで、自分としてはある種の呪縛から解放された感じがあったんです。台詞だけで勝負する‘朗読’という表現方法だったからこそ、より言葉を大切にして、人物造形もより丁寧にしてといったことが可能になったのだと思います。それが一番表れたのが、『スワンソング…』だったんだと思う。」

 

興味深い話であった。エンタメ要素という「飾り」を捨てることで、骨太の人間ドラマが生まれたのだ。勿論、そこにはよこはまさちこ氏の「瘡蓋(ケロイド)」の影響も入っているだろう。

この後、「ゆめいろリーディングvol.3」があるとしたら、保邑氏は同じ方向性を追求するのだろうか。

 

保邑「僕は、朗読劇の脚本家としては、まだ駆け出しだと思っています。朗読劇にはいろんなバリエーションがある。それを組み合わせたり、再構築したりして、いろいろ試せたらいいな。そのことで、お客様の満足度をさらに上げるのが最大の目標です。」

 

保邑リュウジの朗読劇は、まだ発展途上だということだ。ただ、僕はゆめリー12を通して、保邑氏の朗読劇のスタイルは、ほぼ確立されたようにも思う。いずれにしても、次に何が飛び出すのか、益々楽しみである。まだ確定ではないが、「ゆめリー3」にも、よこはま氏のシナリオが原作として採用される模様だ。新たな作家として定着するのか、よこはま氏の本を保邑氏がどう料理するのか、そこも楽しみな点である。

年が明けて来年の春が、待ち遠しくなってきた。

 

(獅堂裕希)

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(写真 松本和幸)